月明の世界に虫の音が降る。…略…
蛙の声を聴いたのは、この間ではなかったか。
あわただしき移りかわり、そのために一層この天地の閑かさが思われて来る。
その悠々たる姿を思わせる天も地もまた過ぎ去ってゆくことを感ずる時に、
いよいよその奥にあるものの本当の落ちつきと平和さが分かって来る。
「良夜」昭和5年9月 羽仁もと子著作集『みどりごの心』より